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  小林 篤子 (新津高等学校 校長)


十五夜
 今年は、九月十二日が十五夜に中り、六年ぶりに本物の「中秋の
名月」となりました。我が家でも、お酒やお菓子などをお月様にお
供えして、秋の夜長を楽しみました。
 「小噺と酒酌み交わす夜半の月」。何だ?と思われるでしょうが、
恥ずかしながら人生で唯一度、私が作った駄作です。俳句になって
いるかどうかも怪しいですが・・・。
 ちょうど十年前の十月一日、私が大好きだった噺家さんが他界し
ました。三代目古今亭志ん朝、口跡も姿もよく、年を取って枯れた
落語を聞きたいと楽しみにしていた噺家さんでした。訃報が伝えら
れた時、「志ん朝が逝った」と気落ちした心に染み入るように満月
が美しく輝いていました。家人と「芝浜」を聞きながら、故人の思
い出話をして酒を酌み交わし、自然と口をついて出たのがこの駄句
です。大切な出来事もいつの事か忘れてしまうこの頃ですが、この
駄句のおかげで十五夜になると「志ん朝が逝った秋になった」と思
い出す事が出来ます。
 お口直しに、子規のお月様に因んだ句を一つ。
「芋坂も団子も月のゆかりかな」。実際に子規庵に行ってみると、
近くの芋坂という所に団子屋があり、子規がその団子を好んで、日
記にも「飴3串、焼き1串」食べたなどと書いていることがわかり
ます。病苦の中、いただいたのか買いにやらせたのか、兎が跳ねる
様な気持ちになって、好物の団子を前に喜ぶ子規の姿が浮かびます。
受験勉強ばかりでなく、節句やお祭りを祝い、四季の移ろいや言葉
遊びを楽しむゆとりを生徒たちにも伝えていきたいと思います。